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zoom RSS ブルキナファソのドラえもん

<<   作成日時 : 2011/10/15 03:49   >>

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 お給料日が来たのに、その雑貨屋はテナント募集のプレートを貼付けて素っ気ない事になっていた。

 アルミが働いている歯医者から歩いて二分のアジアン雑貨屋は、いつ行っても趣味のいい中年女性と趣味のいい中年になりかけの女性のどちらかが店にいて、いつも貧乏で大したものを買うわけでもないくせに店中の商品を触ってはひっくり返しじろじろ眺めるアルミを見とがめるでもなく、時々染め物のスカートなんかを試着するアルミにお似合いです、とか、丈ちょっと短いかもね、とか、的確なアドバイスをくれたりしていたのだけど。

 アルミの恋人は動物の置物が好きで、部屋のあちこちに動物溜まりを作っている。そんな恋人と連絡を断って今日で四日が過ぎていた。お互いに大好き同士だけれど、二人の関係には二人以外の人もまつわってきて、そりゃもういろいろあるのだ。そして物事の優先順位は、仲良しの二人と言えども一致しないこともある。そこんとこどうにかしてくれるまでもう連絡しないで、そういうふうに電話を切ってしまってから、これじゃもう二度と連絡来なくても仕方ないな、ってことにアルミは気づいたりしたけれど、もうどうしようという気にもなれない。
 
 雑貨屋にはいろいろの民族雑貨から集めてきた置物も売られていて、動物を象ったものもたくさん並べられていた。そのなかに、蓋の部分にスフィンクスのような姿勢で伏した動物がデザインされている真鍮製の香合のような容れ物があった。
 鈍い輝きに目を惹かれてアルミが顔を寄せると、その動物は世にもヘンテコな顔をしているので、驚いて、件の趣味の良い中年女性にこれは何ですか、とたずねると、ネズミとライオンが合体した想像上の生き物ですって、とおかしそうに応えたものだった。またどうしてそんなものを合体させたのか、と訝りながらよくよく見るに、その動物はあの有名な漫画のキャラクター、ドラえもんに、どうにもよく似ているので、もうすっかりアルミは可笑しくなってしまって、これを是非とも恋人にプレゼントしたいと値段を確認すべく裏返してタグを読んだ。

“6800円 ブルキナファソ製”。

 たっかいなー、ちょっと、今無理だなー、わーたっかい、だけどこれどうしても欲しいかも、ブルキナファソってどこー?
 手に取った容れ物はずっしりと重たくて、ひんやりとつめたくて、今はまだアルミの持ち物にはなりませんよ、という風情でちんまり手のひらで気取っていた。気取ってはいるくせに顔はなんだかバラバラで面白いので、見ていると飽きなくて愛着が湧く。だから次のお給料日には迎えに来ようと決めていたのに。

 恋人へのプレゼントと思いながら、アルミは同時にあの容れ物を所有したいと思っていたことに気づく。恋人の持ち物になって、それはアルミの持ち物でもあって、そんなふうに二人の境界はちょっと甘やかに曖昧だったり、したのだったあの時は。

 あれから大した時間が過ぎたわけでもないというのに、境界は簡単に形作られて、日常はひょっとするともう二度と戻らないところまで押し流されていくのかもしれない。そんなことを思ったような思わなかったような、アルミは空き店舗の前で足を止めたりしない。

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